Vol.1 メルクリン 蒸気エンジン模型 限定復刻 (Germany)
TOY スチームエンジン模型の歴史的背景
イギリスで実用化された蒸気エンジンで産業革命が起こり、人々の暮らしが一変した。 その時代の花形であった蒸気エンジンの模型も1880年頃〜1960年頃にかけ、世界各国で様々なタイプの物が作られていた。 それらの模型はブリキのオモチャ的な低価格の大衆向けの物と、精巧に作られた実物のレプリカ的な物とに大別することができる。
後者は複雑な機構を持っていたり、大変凝った作りをしており、精緻さと優美さを兼ね備えていて、明らかに子供のオモチャとは一線を画す物であった。 それらのモデルは当時でも恐ろしいほど高価で、それを手に入れる事のできるのはごく一部の恵まれた人達だけであり、正に大人のための鑑賞、コレクション用の物であった。
それらのタイプのモデルは1900年〜1930年代にドイツのバイエルン州のニュルンベルグを中心としたメーカーが作った物が頂点であると言われている。 ビング、カレット、プランク、クラウス、フォーク、ドル、シェナー、そして今回取り上げたメルクリンなどのメーカーの物がそれに該当する。 各社共かっては主力商品として蒸気エンジン模型を作っていた時期もあったが、残念ながら他のアンティークトイに比べて、蒸気エンジン模型についは余り認知されていない。
全盛を極めていたドイツの蒸気エンジン模型だったが、度重なる敗戦で混乱した国内経済や反ユダヤ思想でメーカーのほとんどが潰れたり、買収、吸収合併され姿を消していった。 やがて、外燃機関の急速な発展普及に伴い、蒸気エンジン自体が時代遅れの物となり、加えてモーターやプラスティックを用いた安価で大量生産できる新しいオモチャに人々の興味が移り、ほぼ絶滅してしまった。
そのような激変した時代の中、先を読み鉄道模型に特化することで唯一(フライシュマンも生き残ったメーカといえるが、蒸気エンジン模型に関しては一格落ちる)生き残ったのがメルクリンであり、ご存知の様に現在では鉄道模型の世界的ブランドとして君臨するに至っている。
蒸気エンジンパラダイス エンジン模型礼賛
text &photo 川瀬 桂司
メルクリン限定復刻プロジェクトの意義
蒸気エンジン模型はライブスチーム(水を沸騰させ発生した蒸気)で動かす模型である。
100年近く前のアンティークになると熱、蒸気、水、オイルなどの影響を受け変色、変質、腐食などのダメージが必ずと言ってよいほど見られる。 また、複雑な構造ゆえ煙突、バーナーなどの欠品やバルブやゲージ周りの破損も多く、良い状態で残っている事は極めて稀である。 仮に綺麗な完品があったとしたら、それこそミュージアム級の歴史的文化資料、お宝である。 おいそれと動かせるシロモノではない。
先に述べた様にニュルンベルグの全盛期の蒸気エンジン模型の虜になった愛好家達が、唯一生き残ったメルクリン社に当時のモデルの復刻生産を長年切望していた。 そのような熱狂的なファンのリクエストとメルクリン社としても過っての主力商品であった蒸気エンジンモデルの社内資料の整理保存と、熟練職人達の製作技術の後世への伝承など双方の意向が一致したため今回のプロジェクトが実現したとの説明があった。
コンパウンドエンジン(複式膨張機関)
ボイラーで発生した蒸気を効率良く利用できるように開発された。 高圧蒸気をまず径の小さい高圧シリンダーに入れその排気を径の大きい低圧シリンダーの吸気とする2気筒2段膨張のエンジン形式。 このモデルはクランク位相角が90°のクロスコンパウンド、両シリンダー間にリザーバーを設けなければそれぞれの給排気のタイミングが合わず上手く回らないはずなのだが・・・・長めの配管とクランク軸の遊び(よく見ると90°で固定されてなく±5°ぐらい遊びがある)のおかげで回るのかも知れない。 ちなみに3気筒3段膨張式をトリプルエクスパンションと呼ぶ。
写真中央の左側が高圧シリンダー、右側が低圧シリンダー、径の違いが分かる。左端の円筒状の物は給水ポンプ
スチームアップ 動かしてみる
シリンダー部分(4箇所)にスチームオイルを注油する。
各駆動部分にスピンドル油を注油。
ボイラーに水を入れる。 メーカーの取説によると蒸留水95%と水道水5%を混合した水を使用するようにとある。 確かにイオン化傾向の違う金属だと、H2Oが腐食の原因になるだろう。
給水ポンプのチューブを水に浸け三方弁を開きシリンジで吸いポンプのエアーを抜く。
安全弁が作動するか確認しておく
安全弁は当時主流だったウエイト式
アルコールバーナーに燃料用アルコールを入れる。
規定量90ml以上入れると燃焼室内で温度が上がり、アルコールが噴出したり、移動の際、傾くとアルコールがこぼれ引火し怖い思いをした。 シリンジ等を使いキチンと計る。
初め綿芯の種火に火をつける。
しばらくするとバーナー全体の温度が上がり2本のメインバーナーの気化したアルコールに自動的に点火する
火力は強力で5分前後で沸騰する。
加減弁を開いたら、はずみ車を回してドレイン水を抜いてやる。 一旦エンジンが温まってしまえばセルフスターティングも可能。
全体的に非常にしっかりとした作りで、パワフルに回るが、エンジンを全開で回すと振動でベース部分がややビビる。
蒸気エンジンあれこれ
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1950年代 Made in Japan
コンパウンドエンジン(複式膨張機関)
ボイラーで発生した高圧蒸気をまず径の小さなシリンダー(高圧シリンダー)に導き、圧が下がったその排気を径の大きなシリンダー(低圧シリンダー)の吸気として利用する連成機関。 ちなみに3気筒3段階のものはトリプルエクスパンションと呼ばれる。
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残念ながら、ご存知のようメルクリン社は業績悪化のため身売りし、イギリス資本となってしまいました。 今後はこの様な採算の合わない限定復刻は行わず、一般受けする電動鉄道模型の生産に専業するとのことで存続させる様です。。
このプロジェクトの前後になぜかメルクリン社のマーケティング調査があり不思議に感じました。
いろいろと方向性や可能性を模索し苦しんだ結果、正にメルクリンブランドの伝統と威信を守るため社運を掛けた最後のプロジェクトになってしまったと思います。 (追記)